───日本で治療を受けたい外国人のための基礎知識───
海外から日本の病院で高度な治療や人間ドックを受けたい、手術後に温泉地でしっかり療養したい───。
こうしたニーズに対応するために用意されているのが「医療滞在ビザ(医療滞在査証)」です。
しかし、日本人でも制度の中身をきちんと知っている人は多くなく、「どのような治療が対象になるのか」「付き添いの家族も一緒に来られるのか」「どれくらいの期間、日本に滞在できるのか」といった点は、意外と分かりにくいところです。
このコラムでは、外務省・観光庁等が公表している情報をもとに、医療滞在ビザの仕組み、取得条件、手続の流れ、そして海外の類似制度との比較まで、できるだけ分かりやすく整理してご説明します(内容は2025年12月時点の情報に基づいています)。
1 医療滞在ビザとは何か
医療滞在ビザは、日本の医療機関で治療や人間ドックなどを受ける目的で来日する外国人患者、その付き添いの同行者に対して発給される査証(ビザ)のことです。外務省は、このビザについて「日本の医療機関の指示によるすべての行為(人間ドック、健康診断、検診、歯科治療、療養〔温泉湯治を含む〕など)を受ける目的で訪日する外国人患者等および同伴者に対して発給される」と説明しています。
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つまり、いわゆる医療観光だけでなく、精密検査や長期の療養、歯科治療なども対象に含まれます。2011年に、政府の「新成長戦略」の一環として創設されたもので、日本の高度な医療サービスと観光を組み合わせて海外の富裕層を呼び込むことを目的としています。
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2 どんな人が医療滞在ビザの対象になるのか
対象となるのは、大きく分けて二つのグループです。
一つ目は、日本の病院・診療所などで実際に治療や検査、健康診断などを受ける「外国人患者本人」です。医療滞在ビザの対象となる医療行為は幅広く、規模や施設に関わらず、都道府県の許可または登録を受けたすべての医療機関が指示する行為であれば対象になり得るとされています。
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二つ目は、その患者の身の回りの世話をするために日本に同行する「同伴者」です。
親族に限られず、必要に応じて友人や看護スタッフなどが同伴者としてビザ発給の対象となることが外務省の資料上明記されています。
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同伴者は、日本で就労することはできませんが、患者の通訳や生活サポート、看護的
な付き添いなどを目的として滞在することが想定されています。
3 滞在期間と在留資格の考え方
医療滞在ビザは、もともと「短期滞在」の枠組みの中で設計されていますが、患者の状態に応じて、滞在期間や在留資格の取り扱いが変わります。
外務省の制度説明では、医療滞在ビザによる滞在期間は必要に応じて最大6か月まで設定され、その区分として15日、30日、90日、6か月といった期間が用意されています。
また、ひとつのビザで数回日本を行き来できる「数次査証」が発給される場合もあり、その場合の有効期間は1年または3年とされています(もっとも、1回の滞在は90日以内に限られるとされています)。
ここでポイントになるのが、90日を超える長期滞在です。
外務省は、入院を前提として滞在予定期間が90日を超える場合には、外国人患者本人について「特定活動(告示に基づく医療目的)」の在留資格認定証明書(COE)を地方入管局で取得し、そのうえで査証申請を行う必要があると案内しています。
この場合、在留資格は短期滞在ではなく「特定活動」となり、病態などを踏まえて最大1年までの滞在が認められ得るとされています。
一方、入院を伴わない通院や人間ドックなどで90日を超える滞在を希望する場合は、在留資格認定証明書を取得することはできない旨が明記されており、原則として90日以内の枠の中でスケジュールを組む必要があります。
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4 取得の主な条件
医療滞在ビザを取得するためには、いくつかの前提条件を満たしている必要があります。条文のような列挙ではなく、実際の流れに沿って整理してみます。
まず大切なのは、「日本でどの医療機関に、どのような内容でかかるのか」が具体的に決まっていることです。外務省は、患者側が査証申請をする際、日本の医療機関が作成する「受診等予定証明書」と、後述する身元保証機関が作成する「身元保証書」を提出することを求めています。
単に「日本でいい病院を探したい」という段階では足りず、どの病院で、いつ頃、どのような検査・治療・入院を予定しているかを、日本側と具体的に詰めておく必要があります。
次に重要になるのが、「身元保証機関」の存在です。医療滞在ビザでは、国際医療交流コーディネーターや旅行会社など、経済産業省・観光庁に登録された事業者が、患者や同伴者の身元保証を行う仕組みになっています。
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こうした身元保証機関は、医療機関との橋渡しをしたり、見積もり作成やスケジュール調整、宿泊・通訳の手配なども担うことが多く、事実上の「窓口」として機能しています。外務省や各国のVFSの案内でも、医療滞在ビザを希望する患者は、まず登録済みの保証機関リストからコーディネーターや旅行会社を選び、そこに連絡するよう案内されています。
さらに、ある程度の経済的基盤が求められます。
医療滞在ビザは、日本での治療費や滞在費を自己負担できる経済力を持つ外国人患者を想定しており、外務省や関連機関の説明でも「一定の経済力を有する者」を対象にしていることが明記されています。
具体的には、銀行残高証明書や所得証明、支払保証書などを提出し、治療費・入院費・滞在費を支払えることを客観的に示すことが求められます。
同伴者についても、単に「旅行ついでに一緒に行きたい」というだけではなく、患者の身の回りの世話や通訳など、医療滞在を支援する役割を持つことが前提とされています。彼らは収入を伴う事業や報酬を得る就労活動を行うことはできません。
5 申請の大まかな流れ
実際に医療滞在ビザを取得しようとする場合の流れを、時間軸に沿ってイメージすると次のようになります。
最初の段階では、患者側が日本の医療機関や医療コーディネーターに連絡し、自身の病状や希望する治療内容、来日時期などを伝えます。多くの場合、事前に診断書や検査結果を英語等で送付し、日本側の医師が受入れ可能性や治療方針を検討します。
そのうえで、受入が決まると、日本の医療機関が「受診等予定証明書」を作成し、身元保証機関が「身元保証書」を準備します。費用見積りや支払方法、滞在スケジュール、宿泊先などもこの段階で固めていきます。
必要書類が揃ったら、患者と同伴者は、自国または居住国の日本大使館・総領事館に医療滞在ビザの申請を行います。具体的な必要書類は国や在外公館によって若干異なりますが、一般には、パスポート、申請書、写真、受診等予定証明書、身元保証書、経済力を示す書類などが求められます。
滞在期間が90日を超える入院を予定している場合には、これより前の段階で、日本側(医療機関の職員または日本在住の親族)が地方入管局に在留資格認定証明書の交付申請を行い、その証明書を使って査証申請をする、という別ルートが必要になります。
審査期間は在外公館や案件の内容によって異なりますが、一般的な短期ビザよりはやや長めに見ておく必要があります。コロナ禍以降、各国で医療渡航に関する条件が頻繁に変わってきた経緯もあるため、最新の情報を必ず大使館サイト等で確認することが大切です。
6 海外の医療ビザとの違い・比較
医療目的のビザを設けている国は日本だけではありません。インド、タイ、マレーシア、韓国など、医療ツーリズムで知られる国々も、専用の医療ビザ制度を整えています。
たとえばインドでは、「Medical Visa」と呼ばれる医療ビザがあり、初回は原則6か月〜1年の有効期間で発給され、治療期間に応じて延長することもできます。患者1人につき最大2名まで「Medical Attendant Visa」を発給し、家族や友人が付き添える仕組みになっています。
タイでも、観光ビザとは別に医療目的のビザが用意されており、通常は1回の入国で60〜90日程度の滞在が認められ、条件を満たせば現地の入管で最長1年まで延長できる制度が整備されています。
マレーシアは、医療ビザという名称こそ目立ちませんが、マレーシア・ヘルスケア・トラベルカウンシル(MHTC)が医療渡航者向けのガイドラインやeVISA(Medical)の簡素な手続を打ち出し、医療渡航者の受入れを積極的に進めています。
こうした国々と比べると、日本の医療滞在ビザには次のような特徴が見えてきます。
第一に、日本は「医療滞在ビザ」と「在留資格(特定活動)」を組み合わせることで、短期から最長1年程度までの幅をもたせつつも、永住や長期居住そのものを直接の目的とはしていない点です。インドやタイの一部制度では、医療滞在をきっかけに長期滞在やその他の在留ステータスに移行していくルートが議論されていますが、日本の医療滞在ビザはあくまで「治療・検査・療養のための一時的滞在」という位置付けが明確です。
第二に、身元保証機関の登録制度がしっかりと組み込まれている点です。旅行会社や医療コーディネーターが経済産業省・観光庁に登録され、そのうえで外務省に保証機関として届け出る仕組みは、日本側で患者の受入れ体制を一定程度コントロールする役割を果たしています。同様に、インドやマレーシアでも医療ツーリズムを扱う認定エージェントや医療機関の登録制度が整えられていますが、日本は制度開始当初からこの枠組みを強く意識して設計された点に特徴があります。
第三に、受診内容の幅が公的にはかなり広く認められている点です。人間ドックや健康診断から歯科治療、温泉湯治を含む長期療養まで、日本の医療機関が行う(または指示する)行為であれば、規模を問わず医療滞在ビザの対象となり得ると明記されています。
7 どんなときに医療滞在ビザを検討すべきか
医療滞在ビザは、たとえば次のような場面で検討されることが多い制度です。
- 自国では実施が難しい高度な手術や先端治療を、日本の大学病院や専門病院で受け
たいと考えているとき - 定期的な人間ドックや精密検査を日本で受け、その前後に温泉地などでゆっくりと
療養したいとき - がん治療や慢性疾患の長期フォローアップのために、家族とともに一定期間日本に
滞在したいとき
こうした場合、単なる観光ビザでは医療行為の範囲や滞在期間に限界があるため、医
療滞在ビザを利用することで、法的にも実務的にも安定した形で日本に滞在しながら
治療を受けることができます。
一方で、制度にはいくつかの注意点もあります。
まず、長期の入院を伴わない場合に90日を超える在留資格認定証明書を取得することはできないため、外来治療や検査のみで半年・一年といった長期滞在を想定することは難しい点です。
また、同伴者はあくまで付き添いに限られ、就労やビジネスは原則として認められません。
8 まとめ――「医療+滞在」を安全に実現するために
医療滞在ビザは、日本の医療サービスを受けたい外国人患者と、その家族・同伴者のために用意された、いわば「医療版・中長期滞在ビザ」です。
日本の病院で治療や検査を受け、その前後に観光や療養を組み合わせることができる一方で、身元保証機関の登録や在留資格認定証明書の手続きなど、通常の観光ビザとは比較にならないほど準備すべき事項が多い制度でもあります。
日本側の医療機関やコーディネーターとのやり取り、費用見積り、ビザ・在留資格の選択、同伴者の位置付け、さらには自国・日本双方の税務・保険の問題など、検討すべき点は多岐にわたります。
日本での医療滞在を検討している外国人の方や、その受入れをサポートする日本側の病院・企業にとっては、
「医療滞在ビザでできること・できないことは何か」
「どのくらいの期間、日本に滞在できるのか」
「患者と同伴者にどのような条件・書類が求められるのか」
といった点を早い段階で整理し、専門家の助言も得ながら計画を立てることが重要です。
制度は2011年から続いているものの、コロナ禍を経て運用の細部が見直されている部分もあり、最新の要件は外務省・観光庁・在外公館の情報を必ず確認する必要があります。
医療滞在ビザは、「日本の医療にアクセスしたい」という外国人のニーズと、「安全・円滑に受入れたい」という日本側の要請を調整するための重要なツールです。条件や仕組みを正しく理解したうえで活用すれば、患者本人にとっても、家族にとっても、そして医療機関にとっても、より安心できる医療渡航の枠組みとなり得ます。