1 フランス語の「法定翻訳」とは何か
日本語でいう「法定翻訳/公認翻訳」は、フランス語では一般に
- traduction assermentée(宣誓翻訳)
- traduction certifiée(認証翻訳)
などと呼ばれます。これは、裁判所(控訴院:Cour d’appel)に登録された「宣誓翻訳人(traducteur assermenté / expert judiciaire)」等が、原文に忠実であることを保証し、署名・押印した翻訳のことです。
このような翻訳は、原本と同程度の公的効力を持つものとして、フランスの官公庁・裁判所で受け付けられます。
2 誰がフランス語の法定翻訳を行えるのか
(1) フランス本国の場合
フランスでは、各控訴院(Cour d’appel)の名簿に登録された「翻訳人・通訳人(expert judiciaire)」が「法定翻訳」を行うことができます。
フランス政府のポータルサイト「ServicePublic」では、次のように説明されています。
- 「訳者 agréé(公認訳者)は、控訴院に登録された司法専門家(expert judiciaire)である」
- 名簿はオンライン検索ツールで公開されている(Cour d’appel ごとにリストあり)
(2) 海外(日本など)でフランス当局向けに文書を翻訳する場合
フランス外務省は、翻訳の要件として次のような者による翻訳を原則としています。
- フランスの控訴院に登録された宣誓翻訳人(traducteur certifié près d’une Cour d’appel française)
- 在外フランス公館(大使館・総領事館等)が認定した翻訳人
翻訳された文書と原本には、
- 翻訳者の署名
- 翻訳者の押印
- 原本と訳文に共通する翻訳番号(両方の文書で同一)
などが記載されることが多く、「この翻訳は原本と相違ありません」といった認証文言が付されます。日本国内でも、日仏文化協会などいくつかの機関がフランス大使館から「法定(認証)翻訳」を行う機関として認定されています。
3 どのような場面でフランス語の法定翻訳が必要か
典型的には、フランスの官公庁・裁判所に、日本語その他の外国語文書を提出する場合に必要となります。その例としては、以下の書類が挙げられます。
- 戸籍謄本・住民票等の身分関係書類(出生、婚姻、離婚、死亡など)
- 婚姻手続・離婚手続・相続手続で提出する各種証明書
- ビザ・滞在許可・国籍関係(帰化など)の申請書類
- 学歴・職歴証明(卒業証明書、成績証明書、在学証明書、職務証明など)
- 商業登記簿、会社定款、財務諸表などの商業書類
フランス外務省の「翻訳手続」の説明では、公文書や私文書を「合法化(légalisation)」する場合、原則としてフランス語で記載されているか、フランス語訳が添付されていることが求められ、その翻訳は上記のような有資格の翻訳人による必要がある、とされています。
4 日本で発行された書類をフランスに提出する場合の典型的な流れ
日本で発行された戸籍謄本などを、フランスの役所・裁判所に提出するケースを想定すると、一般的には以下のような流れになります。
- 日本で書類の原本を取得
まずは、戸籍謄本、住民票、婚姻・離婚届受理証明書、登記事項証明書などを日本の役所等で取得します。
- アポスティーユ認証を取得
フランスはハーグ条約に加盟しているため、外務省のアポスティーユを取得すれば足ります(在日フランス大使館・領事館による領事認証は不要)
- フランス語の法定翻訳の取得
日本国内で、フランス控訴院登録の翻訳人あるいは在日フランス大使館/総領事館が認定する翻訳機関などに依頼し、フランス語の認証翻訳(traduction certifiée)を作成してもらう。
原本+翻訳文に、訳者の署名・押印・翻訳番号を付してもらう。
- 必要に応じて訳者署名の認証
文書をさらに合法化(légalisation)する場合、訳者の署名についても公証人・ 役所・フランス公館等による認証が要求されることがあります。
最終的に、「アポスティーユ付き公文書(日本語)」と「法定翻訳」をセットにしてフランス側の機関に提出します。
5 一般の翻訳との違い
(1) 法的効力・責任の有無
- 一般翻訳
翻訳者が誰であってもよく、形式的要件は特になし。また、法的には単なる参考資料扱いになることが多く、そのままではフランスの役所や裁判所で受理されない場合があります。
- 法定翻訳(traduction assermentée / certifiée)
これに対して法定翻訳は、有資格の宣誓翻訳人が、自らの責任で「原文に忠実」だと宣誓して行う翻訳を言います。訳者の署名・押印により、行政・司法手続で証拠能力・公的効力を持つ翻訳として扱われます。そのため、翻訳者は専門家としての責任を負うことになり、フランスの専門家向け解説でも「責任を負うことから一般翻訳より高額・納期も長めになりがち」と指摘されています。
(2) 原本との関係
法定翻訳は、原本から直接翻訳することが求められます。原本が提示できずコピーやスキャンから翻訳する場合には、「この翻訳は○○のコピーに基づいている」といった注記が入れられ、その形式を相手方機関が認めるかどうかを事前に確認する必要があります。
6実務上の留意点
- 依頼先の要求する翻訳者の資格を必ず確認する
- 「フランス控訴院の名簿に載っているか」
- 「在日フランス大使館等に認定されている機関か」
など、相手先機関の要件に合致するかをチェックします。
- どのレベルの翻訳が必要かを提出先に確認する
- フランスの役所によっては、「一般の翻訳+提出者による宣誓」で足りる場合もあれば、「控訴院登録の宣誓翻訳のみ」と厳格に指定する場合もあります。
- 「どの種類の翻訳が必要か」→必ず提出先に事前確認しておくとトラブル防止になります。
- アポスティーユの要否との組合せ
- 「原本にアポスティーユ」「翻訳に訳者署名の認証」といった組合せを求める機関もあります。
- 「原本」「翻訳」「アポスティーユ/認証」のどの組み合わせが必要か、事前に確認する必要があります。
7まとめ
フランス語の「法定翻訳」とは、フランスの裁判所や官公庁に提出するための、公的効力を持った翻訳であり、原則として、控訴院登録の宣誓翻訳人や、フランス公館が認定した翻訳人が作成し、原本と訳文に署名・押印・翻訳番号等を付して「原本と相違ない」ことを保証するものです。
日本発行の書類をフランスに提出する場面では、アポスティーユ認証の取得+法定翻訳の組合せが求められるのが一般的です。
参考URL
https://axiotrad.fr
https://www.service-public.gouv.fr
https://www.diplomatie.gouv.fr/fr