───W-7の書き方から必要書類、日本からの申請まで───
アメリカで税務申告をする必要があるのに、社会保障番号(SSN)が取れない人のために用意されているのが「ITIN(Individual Taxpayer Identification Number)」です。
米国の銀行や証券口座を持っている、日本に住みながらアメリカの不動産を賃貸している、米国企業から報酬や配当を受けている――こうしたケースでは、IRS(アメリカ国税庁)に税務申告を行うためにITINが求められることがあります。
ここでは、日本在住者がITINを取得する場合をイメージしながら、その概要と申請の流れ、注意点を整理してみます。
1 ITINとは何か ― SSNが取れない人のための「税務用番号」
ITINは、IRSが発行する税務上の識別番号で、基本的に「SSNの対象ではないが、アメリカで税務申告を行う必要がある個人」のための番号です。米国籍・永住者や、就労ビザなどでSSNを取得できる人は原則としてITINではなくSSN(Social security number)を使うべきとされており、ITINはあくまで「SSNを持てない人のための代替的な番号」という位置付けです。
ITINは、連邦所得税に関連する手続きのみに使用される番号であって、移民ステータスを与えるものではなく、就労許可にもなりません。また、アメリカ国内での身分証明書としても原則使えないとされています。この点を誤解して、「ITINを取れば働ける」「ビザの代わりになる」と考えることは誤りです。
2 どんなときにITINが必要になるのか典型的な場面としては、次のようなケースが挙げられます。
- アメリカ国内に不動産を所有し、賃料収入がある日本在住者
- アメリカ株式や投資信託から配当・キャピタルゲインを得て、源泉徴収の調整や還付申告をしたい場合
- 米国企業から講演料やロイヤルティなどの報酬を受け取っており、租税条約に基づく源泉税率軽減のために申告が必要な場合
- アメリカ人・永住者の配偶者や扶養家族として、米国の確定申告書に記載する必要がある場合
いずれも、「税務上、IRSに自分を識別してもらう必要があるが、SSNは持っていない」という点が共通しています。
3 申請に使うフォーム W-7 と基本的な流れ
ITINを取得するためには、IRSの定める「フォーム W-7(Application for IRS Individual Taxpayer Identification Number)」を提出します。原則として、初めての申請ではアメリカの所得税申告書(フォーム1040など)とセットで提出する必要があり、「申告書を提出するために番号が必要」というロジックで審査が進みます。
流れとしては、おおむね次のような手順になります。
まず、ITINが本当に必要かどうかを確認します。SSNが取れるビザなのにITINを申請しても却下されるため、ビザの種類や在留状況を前提に判断することが重要です。
次に、フォームW-7を記入します。氏名、生年月日、国籍、住所、申請理由(米国の申告書に記載するため、租税条約の適用を受けるためなど)を、英語で正確に記載する必要があります。人によっては「条約のどの条文に基づくのか」まで問われるため、日米租税条約の条文番号なども確認しておくとスムーズです。
あわせて、本人の身元と外国人であることを証明するための書類を揃えます。原則はパスポート一通で足りますが、パスポートに必要な情報が記載されていない場合や、有効期限切れの場合などは、追加の公的書類が求められることがあります。
そして、W-7と確定申告書、身分証明書の原本または認証コピーをセットにして、IRSへ送付するか、IRS指定の認定受付代理人(CAA)や一部の米国大使館・領事館の税務窓口を通じて提出します。
4 本人確認書類と「認証コピー」の取り扱い
ITIN申請の実務でよく問題になるのが、身分証明書の扱いです。IRSは、申請者の身元を厳格に確認するため、原則として「原本」か「発行機関による認証コピー(certified copy)」しか受け付けません。
日本のパスポートを使う場合、次のような選択肢があります。
- パスポート原本をアメリカのIRSへ郵送する
- パスポートの「発行機関認証コピー」を取得して送付する
- IRSの認定受付代理人(CAA)の面談を受け、代理人が本人確認の上で書類を送付
する
原本を海外に送付することは紛失のリスクがあるため、多くの方が検討するのが二番目の方法です。米国大使館・領事館の「認証サービス」で、パスポートのコピーに領事認証を受け、それをIRSに提出する方法も実務上よく使われています。
三番目のCAAを利用する方法は、米国内や一部の海外にもいるIRS認定の税務専門家・会計事務所を通じてITIN申請をするもので、本人確認や書類のチェックを含めてワンストップで対応してもらえるのがメリットです。その代わり、代理人への報酬が発生しますので、費用対効果を見ながら選択することになります。
5 どこに提出し、どれくらいで番号が出るのか
日本在住者が郵送で申請する場合、フォームW-7と確定申告書、本人確認書類をセットにして、IRSの指定するITIN処理センター(現在はテキサス州の専用住所)宛に国際郵便で送付します。IRSの公表資料では、おおむね七週間から十一週間程度で処理すると案内されていますが、繁忙期や書類不備の有無によって大きく変動するのが実情です。
ITINが無事に発行されると、IRSから申請者宛てに通知レターが郵送され、その番号をもとに今後の申告や各種税務手続を進めていくことになります。
6 実務上の注意点と失効のルール
ITINには「失効」のルールがあり、一定期間使われていない番号は自動的に失効することがあります。例えば、三年連続で使用されなかったITINは失効対象となり、そのままでは申告書に記載しても無効と扱われる場合があります。この場合、再度W-7を提出して番号の更新を行う必要が出てきます。
また、SSNが後から発行された場合には、ITINは原則として使えなくなり、税務上の記録をSSNに統合する手続が必要です。そのため、留学ビザや就労ビザなど、将来的にSSNを取得する可能性がある人は、ITINを取るべきかどうか慎重に判断する必要があります。
日本からITINを申請する場合、W-7の書き方、条約条文の選定、本人確認書類の準備、送付先の確認など、細かな点で迷うことが多くなります。米国税務に詳しい税理士・会計士や、ITIN申請サポートを行っている専門家に一度相談し、必要書類の整理と申請フォームのチェックを受けてから提出することで、不備による差し戻しや長期化のリスクをかなり減らすことができます。
アメリカの税務番号というと難しく感じられますが、「SSNがない人が、正しく納税等をするための番号」という原点を押さえ、目的と要件を一つ一つ確認しながら準備していけば、手続自体は決して不可能なものではありません。